ご訪問いただきありがとうございます。
介護福祉士として、在宅での介護サービスを提供させていただいているサード・ラプソディです。
残念ながら認知症の方は多くなっています。
介護される方は、認知症の方への対応に戸惑たっり、困惑されることも多いと思います。
重度の方の場合、『大変』などという言葉では言い表せない程だと思います。
お忙しい毎日の中で、懸命に考え、推測し、工夫して応対されているのに、うまくいかないどころか、ますます難しくなってくることも多いことと思います。
認知症の方の言動について、「なんでそうなるの?」と思うことが多いです。
どうやって接していいのか分からないことも多いです。
認知症の方の状況や状態はそれぞれ異なるので、接し方について、すべての方に当てはまる必勝法はありません。
でも、認知症の方の特徴を理解すれば、より良い接し方ができます。
この記事では、ヘルパーとして認知症の方を訪問する機会の多い僕から、『接し方に気を付けている点』についてご紹介したいと思います。
実際に対応した4つの介護現場を紹介していますが、その方法は、認知症に関する文献でも取り上げられている点でもあります。
その文献と合わせてご紹介しています。
介護されている皆様に、少しでもご参考にしていただければ幸いです。
① 何を言われても否定せず、認めて受け止める
この事の大切さが以下の文献にも載せられていました。
認知症を理解するための9大法則・1原則
第5法則 : 感情残像の法則
d.事実でなくても認める
認知症をよく理解するための9大法則・1原則 神奈川県・川崎幸クリニック院長 公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事 杉山孝博 氏
認知症の方に共通している症状の一つに『記憶障害』があります。
『物忘れ』というレベルではなく『障害』と言えるものです。
記憶自体がないので、そのことを土台にしてお話ししても受け入れていただけません。
実際、どのように接していたかご紹介します。
ある90代の男性ご利用者の所に3年程訪問させていただいていました。
認知症との診断を受けておられます。
息子様と2人暮らしですが、息子様は仕事に行かれるため、ご本人は日中独居になります。
1時間の訪問の間に、昼食準備、服薬、水分補給、清拭、トイレ介助、掃除などのサービスを行います。
平日は毎日12時~13時に訪問していますが、ヘルパーが来ていることをほぼ忘れてしまっています。
きっと毎日新鮮な気持ちでヘルパーの訪問を受けているのだと思われます。
3年前は、大体15分位はお互いに会話した事柄などを覚えていてくださったのですが、最近では1~2分ほど経つと、同じことを繰り返しておっしゃいます。
服薬をしなければならないので、声かけします。
その時のご気分によって「そんな薬はどこから持ってきたのか分からない、飲みたくない」とか、「そんなの飲んでない」とおっしゃることがあります。
実際は、ヘルパーが毎日来て、服薬のお手伝いをしています。
なので、おっしゃることは違っているのですが、そこを責めません。
『事実でなくても認める』姿勢をお見せするのが最善です。
「これは飲まなきゃダメなんですよ」
「毎日飲んでるんですからきちんと飲まなきゃいけませんよ」
「これはお医者さんからいただいたお薬なので大丈夫ですよ」
と正論を言ってもご理解いただくことも受け入れていただくことも難しいです。
受診した記憶もなければ、薬を受け取った覚えもないのです。もちろん、毎日飲んでいる記憶もありません。
そこへ持ってきて、「飲まなきゃダメですよ」と言ってしまうと、『嫌な感情』が高まってしまいます。
認知症の方は理性よりも感情が残ります。
「飲めない」とおっしゃったなら、まずはそのお言葉をそっくり受け止める必要があります。
そうすれば、ご利用者はひとまず安心されます。
例えば・・・・・
「そうなんですね、今は飲みたくないんですね」とか「今はもう飲んでおられないんですね」
とお話しし、一度片付けてしまいます。
そして、なるべく楽しい話題でおしゃべりしながら、お茶を飲んでいただいたり、何か召し上がっていただきます。
この方は、地域でも誉れ高い進学校に通っておられたので、そのことを話題にすることが多いです。
「あの学校は優秀な生徒たちが通うと評判ですね」
「あの学校に合格されたとは、〇〇さんは勉強を頑張ったんですね。優秀な方ですね」
などとお話しすると「それほどでもないですよ」と笑顔が見られるようになります。
そうした心地よい気分の中の流れで、「あ、そうそう、そういえば昼のお薬があったんでした。すみませんがすぐなので飲んじゃっていただけますか?」と声かけします。
そうすると、飲んでいただけることが多いです。
しかし、時には、何をどうやっても時間内に服薬していただけないこともあります。
別の時には、このようなこともありました。
ケアマネージャーさんは、服薬がまだお済でなかったことを知ると、「薬を飲んでください」と声をかけてくださったのですが、やはりご利用者は「そんなのは飲めない」とおっしゃいました。
ケアマネージャーさんは「それはダメだよ、お薬はちゃんと飲まなきゃ」とお話しすると、案の定ご利用者はお怒りになられ「なんだお前はぶっ殺してやる!」と叫ばれました。
しかし、ご利用者は足がお悪く、相手を追いかけることはできません。
お体をブルブル振るわせてケアマネージャーさんを追いかけようとされましたが、思うように椅子から立ち上がれず、お気の毒でした。
ケアマネージャーさんが退出し、お茶を入れなおし、しばらくして落ち着いてからお声かけすると、お体はまだ少しフルフルしていましたが、服薬されました。
僕も訪問し始めの頃は、どのように対応すべきかよく分からず、何度も物騒なお言葉をいただきました。
頭では分かっているつもりでも、声かけの通りに行っていただけないと、つい少し強い口調で話してしまい、ぶつかってしまうことがありました。
感情をかき立ててしまうとご利用者のためにならないので、とにかく何か言葉を発せられたならば、決して否定せず丸ごと全部認めて受け止めることが大事です。
② 何があっても笑顔で応対する
これも欠かせません。
『その人の印象は顔を合わせた最初の3秒で決まる』
と、接遇についてのヘルパーの研修で教えていただきました。
自分の口角が下がっているか、それとも笑顔かで、その後のご利用者のご様子が変わってきます。
認知症の方を訪問する時には、『今日はどのようなご様子か?どんなご気分か?どんなご機嫌か?』に特に注意を払っていました。
突発的な事が起きることも多く、その時の接し方によってその後のご利用者のご様子も変わってきます。
この文献で述べられていることを介護者が理解していると、接し方にゆとりをもたせることができます。
認知症をよく理解するための9大法則・1原則
第7法則 : 作用・反作用の法則
認知症の方に対して強く対応すると、強い反応が返ってきます。認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が、認知症の人の状態です。
認知症をよく理解するための9大法則・1原則 神奈川県・川崎幸クリニック院長 公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事 杉山孝博 氏
この通りです。
特に、突発的な事件が起こった時に笑顔で接することができれば、ご利用者の感情の波を最小限にすることができます。
反対に、そうした時に、介護者が強く、厳しい反応をしてしまうと、その後さらに状況は難しくなってしまいます。
ある80台のご利用者のところに訪問していました。
お体は大変お元気ですが、前頭側頭型認知症です。
このタイプの認知症の方は、理性や感情のコントロールができなくなってしまいます。
ある日の訪問中に排便がありました。便失禁です。
便意はあったりなかったりという状態です。
ソファにおられたのですが、いいニオイがしてきたので気がつきました。
残念ながら言葉によるコミュケーションは取れなくなっています。こちらの伝えることを理解することはほぼできません。それでも、何とかしなければならないので声をかけます。
「〇〇さん、そろそろトイレに行きましょう!」
手を取り、立っていただきました。
やはりお尻が気持ち悪いようです。
「なんかここが変なんだけど」
と、お尻をさすり、顔をしかめておられました。
リハパンを用意しトイレに行きました。
リハパンを下げると大量の軟便が出ていました。
「なんかここが変なんだけど」
と手をお尻に持っていってしまいました。
その手で服や手すりなどあちこち触ります。
こうしたことは珍しくはないですが、やはり焦ります。声かけの言葉も自分の顔もとがってしまいました。
ご利用者の手を抑えながらオムツを脱がせ、お尻を拭きます。
ご利用者は何をされているのかわからず、抵抗されます。
こちらの声も大きくなり、手には力が入ってしまいます。
すると、ご利用者も「何するんだ!」「やめろ!」などとおっしゃり、声も大きく、きつくなってきました。
『これはいけない!』
と思い、今度はゆっくりと「大丈夫ですよ〜」と声かけし、笑顔をむけました。
しかし、一度感情が高ぶってしまうとなかなか元には戻っていただけません。
壁や服や腕などあちこち触ってしまいましたが、後でキレイにすることにし、なるべくのんびりと声かけし、少し時間はかかったものの何とか落ち着いていただくことができました。
その後始末が大変でしたが・・・・・
何があってもどんな状況でも、笑顔で対応するのが最善です。
突発的なことが起きると、笑顔で接することは非常に困難です。
たとえどんなに引きつっていても、笑顔で応対するのが一番の近道です。
②-1 是非、活用を考えていただきたいこと
ご家族が毎日、お一人で認知症の方に対応するのは非常に困難です。
心身ともに力が削り取られる毎日になってしまいます。
介護者の方に、まだ余力があるうちにケアマネージャーさんに相談し、早急にヘルパーの活用を考慮されることをおすすめします。
③ 一緒に行なう
ある80代の方(独居男性)は軽度の認知症(MCI)です。
几帳面な方です。
ご自分が大切にしておられる様々な物を、いろいろな所に収納(隠す)しておられます。
ところが、大切にされている『ある物』がどこにあるのかが分からなくなってしまいました。
ある日訪問させていただくと、困惑した顔で探し物をしておられました。
「何か探し物ですか?」と尋ねると、
「あれがなくなっちゃったんだよ」
とのことでした。
『あれ』というのは、最近ご家族から渡されたスマートフォンのことなのですが、そろそろご家族から連絡が入ることになっているとのことで、焦って探しているところでした。
この時に、ご本人と同じように『困惑気』な顔をしてしまうと、余計にお気持ちが落ち着かなくなってしまいます。
なので、できるだけ笑顔で、明るい口調でお話しするようにしました。
こちらも時間で動いているので、ゆっくりお付き合いするわけにはいかないのですが、数分ご一緒に探すことにしました。
スマートフォンはカーペットの下にありました。
認知症のご利用者の中には被害妄想を抱く方がおられます。自分の大事にしている物を誰かが奪おうとねらっていると思い込んでおられます。
それで、玄関の鍵やスマートフォンなどを見つからないように隠しておられます。
ご一緒に探すとすぐに見つかったので、大変安心され、大袈裟なくらいに感謝してくださいました。
もちろん、ヘルパーには限られた時間しかないと伝え、そのままご利用者にお任せしても仕方がありません。
でも、たとえわずかな時間でも笑顔をお見せしながらご一緒に何かを行うならば、お気持ちを穏やかにしていただけます。
こちらの『力になりたい』という気持ちを伝えることができます。
もしも見つからなかったとしても、『一生懸命やってくれた!』との良い感情を抱いていただけます。
こうした小さなことの積み重ねによって、たとえ認知症の方であっても信頼関係を築くことができ、安心していただくことができます。
④ 感謝やほめ言葉をのべる
認知症をよく理解するための9大法則・1原則
第5法則 : 感情残像の法則
a. ほめる、感謝する
認知症をよく理解するための9大法則・1原則 神奈川県川崎幸クリニック院長 公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事 杉山孝博 氏
大変不思議なのですが、感謝の言葉やほめ言葉は、人の心に響きます。
認知症の方であっても受け止めてくださいます。
『参考例その1』のところでご紹介したご利用者は、便意や尿意が弱くなっています。
ほぼ毎回リハパンやパッドを交換しています。
一度の声かけで素直に交換させてくださる時もあれば、なかなか応じてくださらないこともあります。
こちらから感謝をお伝えすると、声かけに応じてくださることが多くあります。
先に感謝をお伝えします。
「〇〇さん、いつも僕たちヘルパーの訪問を快く受け入れてくださってありがとうございます。〇〇さんの所に伺うのをいつも楽しみにしているんですよ」
こんなふうにお伝えすると、
「いやいや、お礼を言うのはこっちです。ありがとうございます」
とおっしゃってくださいます。
その後、パッド交換などをお願いしてもスムーズに応じてくださることが多いです。
もちろん100%というわけにはいきませんが、少なくとも感謝をお伝えして悪い気がする方はいないのではないでしょうか。
ソファから立ち上がっていただく時も、
「しっかりされていますね」
「足腰の鍛えが違いますね」
などとほめ言葉を声をかけます。
そうすると、『頑張ってみよう』と思っていただけるようです。
お願いするとスムーズに応じてくださることが多いです。
もちろん、いつでもお願いを受け入れていただけるわけではありませんが、少なくとも『イヤな気持ち』にさせてはいません。
『感情の残像』として良いお気持ちを残すことができれば、穏やかに過ごしていただけます。
気持ちよく過ごしていただける時間を増やしていくために、『ほめる』ことや『感謝する』ことは本当に有効です。
⑤ まとめとして
認知症の方は理性よりも感情が優先されてきます。
『きちんと伝えれば分かってもらえる』
と言うわけにはいきません。
この記事では以下の点を取り上げました。
・何を言われても否定せず、認めて受け止める
・何があっても笑顔で応対する
・笑顔で一緒に行なう
・感謝やほめ言葉をのべる
僕は、在宅介護の現場でこれらの点をいつも念頭に置き、様々な場面で活用し対処しています。
介護する側は一生懸命、必死になってサポートしようとしているのに、ご本人には全く伝わらないことが続くと、『心が折れる』こともあります。
介護者にはある程度の『心の余裕』が必要です。
ケアマネージャーさんと相談し、ショートステイ(レスパイトケア)などを活用しながらサポートしていただきたいと思います。
ヘルパーや他の介護保険サービスを活用し、少しでも介護者のご負担減らしながら取り組んでいかれることを願っています。
お互いに信頼関係を強めていくなら、負担が軽くなる場面も多いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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