独居生活を送る【要支援2認定】のリッチな男性は、なぜ有料老人ホームから自宅へ戻ったか?

ご訪問頂きありがとうございます。

訪問ヘルパーの事例紹介記事です。

ヘルパー利用について、非常に合理的な考え方のご利用者がいらっしゃいました。

S様は80代半ばの男性です。

通信会社の技術者として働いてこられました。

定年退職後、奥様を亡くされ、独居生活を送っておられました。

息子様が一人おられるものの、ほとんど行き来はない状態でした。

80歳の頃に脳梗塞を起こされ、

①救急搬送→②入院→③リハビリのため転院→④有料老人ホーム→⑤自宅(独居)

といった経路をたどってこられました。

左半身に少しマヒが残っているものの、自宅での生活にはそれほど不自由はありません。

認定調査の結果は『要支援2』でした。

しかし、ホームにいた方が食事の心配はありませんし、スタッフが常駐しているので何かあっても安心です。

S様はなぜ自宅へ戻りたいと思ったのでしょうか?

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① S様はなぜ独居生活となる自宅へ戻ったのか?

そこには、『有料老人ホーム』での生活状況が影響していました。

このようにおっしゃっておられました。

「いつも一人でいたからだれとも話をしない。あんな所にいたら、あっという間に頭がおかしくなっちゃうよ。3食しっかりご飯は出てくるけど、何の刺激もない」

とのことでした。

狭い部屋で、だれとも会話することなく、無為に毎日が過ぎることに危機感を抱いておられたのです。

「じゃあ、どんなふうに毎日過ごしておられたんですか?」と尋ねると、

「オレは洋画が好きだから、朝から晩まで来る日も来る日も洋画を観ていた」

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「それで、なんとか生き延びたんだよ」

と真顔でおっしゃっておられました。

確かに、テレビの周りには、うずたかくDVDのケースが積まれており、そのほとんどが洋画でした。

こんなこともおっしゃっておられました。

「老人ホームに毎月20万円以上の金を払うなら、家に帰ってヘルパーに一日おきに来てもらい、いろいろ話をした方がよっぽどいい刺激になるし、安上がりだ。とにかく人と話をするのが一番いい」

なるほど・・・そういう考え方もあるのかと腕を組んだのでした。

1ヶ月の費用は、ヘルパーさんを頼んだ方が断然安いです。

ご一緒に家事などをしながら、お好きな話題の会話もできます。

② 独居生活を送るS様はなぜヘルパーの訪問をより多く望んだのか?

地域包括支援センターを通して、ヘルパー派遣の依頼が僕の所属する訪問介護事業所にきました。

S様の希望は「ヘルパーに週3回来てほしい」というものでした。

『要支援2』の認定の方で、週に3回の訪問を受けておられる方は少数派です。

なぜなら、『要支援』認定の方は、基本的には『介護予防』がメインであり、それほど切羽詰まった状況にある方は少ないからです。

週に3回ものヘルパーの訪問がどうしても必要であるなら、その方は『要介護』認定を受けていてもおかしくありません。

『要支援』認定ということは、そこまで介護の手がかからないということであり、「これ以上重度の介護状態にならないように予防しましょうね」

という認定だったということなのです。

S様は、もちろんそんなことはお構いなしです。

S様にはS様のしっかりとしたお考えがありました。

その理由は、

「家ならヘルパーを頼んで、話もできるし、いろいろな点でいい刺激が受けられるから」

とのことでした。

それで、なるべく回数多く来てほしいと思っておられたのでした。

③ 独居生活を送るS様へのヘルパー訪問のケアプランとは?

S様のご希望を聞き取ったのち、ケアマネージャーが作成したケアプランは、『掃除』でした。

週に3回、1時間の掃除です。

独居です。

そんなにお部屋は汚れるでしょうか?

汚れないです。

あと、必要な時の『買い物代行』も含まれていました。

しかし、S様は、通販マニアでいらっしゃいました。

お金もたっぷりあります。

居間の70型テレビでは、通販のチャンネルを長い時間ご覧になっておられました。

室内には、お買い求めになった便利グッズが使われないままあちこちに積まれ、歩行の動線を確保するのもひと苦労な状態です。

当然、食料品なども通販で購入され、ドリンク関係はすべて『箱買い』です。

多くの方の場合は、『掃除など自分一人で行うのは大変なので、ヘルパーさんに来てもらう』

というものなのですが、S様の場合は、生活援助は二次的な位置に置かれていました。

ケアマネージャーさんはどういう訳かご本人の希望を尊重し、訪問介護事業所のサービス提供責任者とも相談したものの、ヘルパーを週に3回派遣するプランを立てました。

ここで、ちょっと裏話ですが・・・・・
『要支援』認定を受けると、ケアマネージャーさんは、地域包括支援センターの職員の方が担当されます
そのケアマネさんと、僕の事業所のサービス提供責任者は持ちつ持たれつの関係でした。
(悪い意味ではありませんよ。互いに『協力関係』にあるという意味です)
ケアマネさんは「○○ちゃん(サービス提供責任者の名前)ごめん、ちょっとこのご利用者(S様のこと)あれなんだけど、週に3回何とかお願い、この通り」
と頭を下げていました。
あれ」というのは、週に3回ヘルパーが入っても、それ程やることがなく、時間を持て余してしまうと思うんだけど、うまくやってね💚
という暗黙のお願いなのです。
これまでのお互いの関係で、サービス提供責任者としても受けざるを得ないのでした。

S様宅は、大きな二階家でした。

一見、掃除のやり甲斐はあるような気がしました。

しかし介護保険のルールでは、『ヘルパーが行える掃除は、ご利用者が普段使っておられるところだけ』と決められているのです。

2階は全く使われていないので、掃除はできません。

階段もできません。

そして、

『要支援』認定の方の場合は、『予防』が主たる目的です。

『総合事業』と呼ばれる取り決めに従って提供されるサービスです。

正式には『介護予防・日常生活総合支援事業』

といいます。

ちなみに、以下は厚労省のガイドラインです。

介護予防・日常生活支援総合事業 ガイドライン案(骨子)
第1 総合事業に関する総則的な事項
○事業は、要支援者の多様なニーズに、要支援者の能力を最大限活かしつつ、多様なサービスを提供する仕組み。
○生活支援の充実、高齢者の社会参加・支え合い体制づくり、介護予防の推進、関係者間の意識共有と自立支援に向けたサービスの推進等を基本に事業を実施。
○住民主体のサービス利用、認定に至らない高齢者増加、重度化予防推進により、結果として費用の効率化。

介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン(概要)厚生労働省老健局振興課

いくつかポイントとなる言葉が記載されています。

1『要支援者の能力を最大限活かしつつ』
2『自立支援に向けたサービスの推進』
3『介護予防の推進』
4『重度化予防推進』

などです。

ヘルパー利用について言えば、以下のように当てはまります。

1『要支援の方にできることは行っていただき、できないところをヘルパーと一緒に行う』
2『できれば、全部ご自分でできるようになっていただき、要支援状態を卒業していただく』
3『これ以上、お体の状態が悪くなるのを予防するためにヘルパーのサポートを受ける』
4『介護度がこれ以上重くならないようにヘルパーと一緒に頑張りましょうね』

ということになります。

これらのことをS様がどこまで理解しておられたかは分かりません。
(担当のケアマネージャーさんは、しっかり説明していた・・・らしいです)

④ ヘルパー訪問時のS様のご様子は?

僕たちヘルパーが訪問すると、第一声は、

「お~来たか~、今日もやることないぞ~!」

です。

そして、

「ちょっとこれを見てくれよ」

とおっしゃり、広い居間に鎮座する70型テレビの大画面を見せてくれます。

画面の下の方には、ご自分が購入された銘柄の株価の数字が表になって映されています。

「最近、株が上がっちゃってすごいんだよ~」

とご満悦です。

お元気なのは良いのですが、こちらは気が気ではありません。

『お掃除』のために訪問しているので、仕事をしなければなりません。

「あ、あの~、すごいですね。儲かっているんですね」

「そうなんだよ、○○万円の儲けだ!」

「それは、良かったですね。良かったところで、今日は寝室の掃除や、お天気がいいのでお布団を干しましょうか?」

「寝室はこの前やったからいい、それより、今度○○の株を買おうと思うんだよ~、株主優待の品物がいいんだ」

そうおっしゃると、○○証券の株主優待券の冊子本などを持ってこられるのです。

『困ったな~、どうしよう・・・・・』

一応笑顔ではいるものの、心の中ではうなだれているのでした。

S様としては、ご自分のなさっておられることや趣味のことなどをとにかく話したいのです。

それが自宅に戻って来て、一番いい刺激になっていると思っておられるのです。

そのお気持ちは分かります。

良い刺激になっているのもその通りだと思います。

とても良くわかるのですが、介護保険サービスは国や自治体の事業であり、僕たちヘルパーはご利用者のために派遣されているので、ご一緒に何ごとかを行って介護予防のためにお役に立たなければならないのです。

しかし、その一方で、

『こうやってお話しするのも、予防のために欠かせない大切な時間である』

ことも分かっているのです。

ここが、難しいところなのです。

でも、このまま居間に居座って株価の上がり下がりを見守っている訳にはいきません。

見守らなければならないのは、巨大なテレビではなく、一緒に掃除を行っていただくS様の方です。

仕方がないので、ちょっと強めに、

「すいませんSさん、僕せっかくやって来たので、お部屋やお手洗いやお風呂場など、ご一緒にお掃除しましょう。お願いします」

と頭を下げます。

すると、

「なんだ~、そんなのいいのに、話しする方がよっぽど助かるのに・・・・・」

などというお小言を頂戴しながら重い腰を上げられるのです。

「布団は干さなくていい、この代わり、これをかけてくれ」

と言われ、お布団クリーナーのレイコップの機械を出してくれました。



「これをやると、布団がふかふかになるんだよ」

と笑顔が見られました。

レイコップを持ってみると、やや重量感はあるものの、かけた後は確かに布団はふっくらするし、ほこりなどは『こんなに!』と驚くほど取れるし、さっぱりしました。

梅雨時など、外にお布団を干せなくても、レイコップをかけると負けないほどふんわりします。

ヘルパーさんに頼むこともできます。

もしもご興味がおありでしたら、のぞいてみてください!

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⑤ その後、S様の独居生活はどうなったか?

定期的に通院しながら、何とか独居生活を続けておられました。

80代も半ばになられていましたが『要支援2』の認定も変わらず、キープしておられました。

しかし残念ながら、ある日、ご自宅で脳梗塞を再発されてしまいました。

翌日、息子様が来られ発見されました。

救急搬送されましたが、入院となってしまいました。

ケアマネージャーさんから連絡があり、

「もうご自宅に戻って来ることはできない」

とのことでした。

残念でなりませんでした。

確かに、有料老人ホームに入られているよりは、奥様との思い出の詰まったご自宅でゆっくりと毎日を過ごすことができたので良かったのかもしれません。

しかし、食生活を中心に、生活管理には難しい面がありました。

有料老人ホームでの安心安全を取るか、ご自宅での自由を取るか、それはご本人がお決めになることなので、一ヘルパーが何も言うことはできません。

でも、『S様のために、何かもっとできることがあったのではないか?』

という苦い思いは残りました。

⑥ まとめとして

「老人ホームに毎月20万円以上の金を払うなら、家に帰ってヘルパーに一日おきに来てもらい、いろいろ話をした方がよっぽどいい刺激になるし、安上がりだ」

というS様のお言葉は、一つの合理的な考え方だったと思います。

自宅であれば、だれに気を遣うことなく自由に過ごすことができます。

しかし、その反面、生活を管理し様々な危険を回避する点では難しいところもありました。

ヘルパーを最大限利用されていたような、そうではなかったような微妙なところもありました。

ご家族は、週に3回もヘルパーさんがやって来てくれるので安心されていました。

その点は良かったと思います。

結局、『要支援』認定の方への関りで一番良いのは、厚労省のお達しに向かって最大限支援することになんだと再確認した次第です。

厚労省ガイドライン:ポイントとなる点の抜粋
1『要支援者の能力を最大限活かしつつ』
2『自立支援に向けたサービスの推進』
3『介護予防の推進』
4『重度化予防推進』

ご利用者は様々な人生を歩んでこられた大先輩です。

敬意と感謝をこめて、これからも全力でサポートしていきたいと思います。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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