介護福祉士のサード・ラプソディです。
親御さんが認定調査を受けられ、その結果、『要介護』又は『要支援』認定になるとヘルパーさんを頼むことができます。
親御さんが一人暮らしをしておられるなら、ご自宅での生活にいろいろと心配になることもあると思います。
ヘルパーさんが定期的に来てくれて、安否確認はもちろん、身体面や生活面のサポートをしてくれるなら、本当に助かると思います。
しかし、親御さんご本人は「そんなのいらない、一人でやっていける」とおっしゃるかもしれません。
今回の記事では、そんなふうにおっしゃりながらも、なんとかヘルパーの訪問を受け入れてくださったある男性ご利用者の例をご紹介したいと思います。
・独居ご利用者の状況・状態
・独居ご利用者へのサービス内容
・独居生活を送るご本人の反応
・ご利用者に対し、難しいと感じた点
ヘルパーさんの訪問を快く受け入れてくださる方は多いですが、そうでない場合もあります。
特に、「自分はまだまだ大丈夫、人の手は借りない」と思っておられる方に対して、無理に訪問を取り決めても難しいところがあります。
今回の記事はそのようなケースをご紹介しています。
この記事は約6分で読めますので、是非ご一読いただければ幸いです。
① 独居ご利用者の状況・状態
S様は80代男性です。
日当たりの良い南向きアパートの1階にお一人で住んでおられます。
家具などは最低限のものをそろえておられ、簡素に暮らしておられます。
食料品や生活用品などは生協で頼んでおられ、自宅に配達してもらっています。
娘さんが一人おられます。車で1時間ぐらいのところに住んでおられ、時々お世話のために来られています。
S様は、認知症はないものの、腰がお悪く、立ち上がりや歩行、腰をかがめての仕事や立ったままの仕事などは困難です。
心配された娘様は地域包括支援センターに行かれ、担当の職員さんと相談されました。
その結果、訪問介護を利用することにされ、地域包括支援センターから僕の事業所に訪問の依頼がきました。
娘様は、ヘルパーを依頼することをS様に話され、一応の承諾を得て、訪問が開始されることになりました。
しかし、ここにひとつ難しいことがありました。
S様は娘様に了解の意思表示をされたものの、それは娘様に押し切られた形のもので、心から望んではおらず、むしろ否定的なお気持ちを抱いておられたのです。
早い話が「娘が勝手にやった」と思っておられたのです。
② 独居ご利用者へのサービス内容
室内の清潔を保つために『掃除』を毎週火曜日と金曜日に行うことになりました。
1時間の訪問です。
トイレ・浴室
S様は『要支援2』の認定でした。
『要支援』認定の方は、より重度な介護を必要とすることを『予防』するために、生活の難しい部分をヘルパーさんと一緒にやっていくという形でのサービス提供になります。
ヘルパーさんに『丸ごとやってもらう』というものではないのですが・・・・・
③ 独居生活を送るご本人の反応
最初は別のヘルパーさんがお伺いしていましたが、その後、僕が訪問させていただくようになりました。
訪問し、ご挨拶してもお返事がなく、挑むような表情でこちらを見ていました。
話しかけてもうるさそうにしかめっ面をされるばかりで、取り付く島もないという感じでした。
初めに、掃除する内容をご説明してから開始します。
お体に難しい面があるので、ご自分にできるところを行っていただきたいと思い、そのように声掛けしました。
すると「オレは掃除をやってもらうためにお宅たちを頼んでいるんだから、勝手にやってくれ」とのことでした。
ほかにも「お宅たちは掃除屋なんだから、自分たちで考えてやってくれ」
とか、「お宅たちはプロなんだから、掃除してお金稼いでいるんだからオレを使うな」
などと訪問の度におっしゃっておられました。
介護保険を利用してヘルパーを頼んでおられるので、『予防』という趣旨をご理解いただき、是非できることをご一緒に行っていきましょうとお話しすると、「それならもうお宅たちに来てもらわなくていい」とのことでした。
ご一緒に掃除をする意志は全くないご様子でした。
加えて、仏壇の掃除や窓ガラスの掃除など、介護保険では対応できないことも頼んでこられるようになり、それはできないことをお話しすると「だったら帰れ!」と追い返されることもありました。
しばらくこのような状態が続きました。
まったく改善の様子が見られなかったので、S様の担当サービス提供責任者やケアマネージャーさんにもご本人のところへ説明に行っていただきました。
それと共に、介護保険ご利用の目的などをご理解いただくよう娘様にお伝えしました。
娘様からS様にお話しが伝わったようです。その後、ケアマネージャーさんに連絡があり、ヘルパーの訪問は中止となりました。
ところが、約2週間後、ご本人から僕の事業所に電話があり、ちょうど僕がその電話をとりました。
すると「また来てほしい、お宅の都合のいい時で構わないいから」とのことでした。
以前のような気丈な声音ではなく、弱弱しい話し方でした。
すぐに、担当だったサービス提供責任者にその旨伝え、ケアマネージャーさんとも相談し、訪問再開を段取りしました。
ケアマネージャーさんから娘様に事情をお伝えし、ご本人に訪問再開を希望されているのは本当かを確認していただきました。
やはり、訪問を依頼したいとのことだったので、今度は週に1回訪問することになりました。
しかし、やはりご自分では何もなさろうとせず、こちらからの声掛けにもうるさそうにされるのは相変わらずでした。
ただ、お体を動かすのが相当大変そうにお見受けしました。
お体の具合から、『一緒に』掃除をするのは難しそうでした。
当たり障りのない「今日はいい天気ですね」とか「お変わりありませんか?」などのお声がけは続けていました。
前よりは反応がありましたが、お互いの関係はなかなか前に進まないという感じでした。
掃除も、時間や介護保険適応の範囲で一生懸命行いました。
その後、2ヶ月ほどのち、僕から別のヘルパーに担当替えになりました。
最後の訪問の時には、「今までよくやってくれたなぁ、本当によくやってくれた」と言ってくださいました。
突然のことに、一瞬ビックリしてしまいました。
そして、申し訳ない気持ちにもなりました。
僕が感じていたよりも、S様との距離は遠くなかったのかもしれません。
気を遣ってあまり話しかけなかったのですが、もっともっと声をかければ良かったのかもしれません。
新しい方はベテランの女性のヘルパーさんでした。
問題なく訪問は続いて行きました。
④ ご利用者に対し、難しいと感じた点
・ご本人はヘルパーを必要とは感じておられなかった
たとえ栄養豊富でおいしい料理だとしても、お腹いっぱいの方に食べるように促してもそれは難しいです。
それと同じように、だれかの手助けを必要と感じていない方にヘルパーの訪問を受け入れていただくのは困難です。
ヘルパーさんが来るといっても、どんな人か分かりません。
今まで、そのような経験をしたことがないのです。きっと不安だったと思います。
掃除をしてくれるといっても、どんな掃除をしてくれるのか、自分の希望するやり方をしてくれるのか分からないと思います。
「介護保険では、○○と○○の掃除をしてくれるんですよ」
とだれかから説明されたとしても、今まで自分の家をだれかに掃除してもらったことがなければ、イメージのしようがありません。
きっとご本人は『どうなるんだろう?』と思われていたにちがいありません。
その辺りは、僕たちヘルパー側の手落ちだったと思います。
ご利用者に合わせて、もっときめの細かいご説明をさせていただき、十分ご理解をいただいてからサービスを開始すべきだったと思います。
訪問介護事業者と『契約』してしまってからだと、今度は断るのが大変です。
なので、例えば『お試し訪問』を取り決め、ヘルパーさんが掃除(その他のサービス)をしてくれるのはどういう感じなのかを体験していただく、という方法です。
企業努力が必要だとは思いますが、価格を抑えた『介護保険外ヘルパーさんお試しサービス』ということで、ご利用者さんにヘルパーさんが来てくれる『感じ』を体験していただけるなら、その後のヘルパーさんの訪問に対して問題が起きにくくなるのではないかと思います。
*『要介護』認定を受けておられる方への『身体介護』は除きます。
ヘルパーさんの数がそもそも少なく、『そこまで手が回らない』かもしれませんが、契約し、訪問開始後にトラブルが起きると、その対応が本当に大変です。
そして、そもそもヘルパーさんの訪問を受け入れるのが難しい『タイプ』の方もいらっしゃいます。
そうしたご利用者を、事業所側が見分けることができる点でも有効ではないかと思います。
残念なことではあるのですが、訪問介護事業所としてヘルパーを派遣することができないと判断せざるを得ない方もいらっしゃいます。(単なる『消費者』となってしまい、気に入らないことがあるとすぐに『クレーム』を付けてくる方。訪問介護事業所を渡り歩いてしまっているような方)
ヘルパーさんの数に限りがあるので、どうしても訪問先を選別しなければならない現実があります。その点でも『お試し』の訪問は有効ではないかと思います。
・介護保険の趣旨をご理解いただけなかった
ご本人は「オレは掃除屋を頼んでいる」とおっしゃっておられました。
完全に勘違いされています。
『ヘルパー』を頼まれているのでした。
『掃除屋さん』と『ヘルパーさん』の違いはなんなのでしょうか?
一番大きな違いは『ヘルパーさんはご利用者のできないところをサポートする』というところです。
内容が『掃除』であれば、主に取り組まれるのはあくまでも『ご本人』です。
ヘルパーさんはそのサポートをするのが仕事です。
特に『要支援』認定を受けておられる方は、『予防』のためにヘルパーさんを活用することができます。
S様の場合、この点をご理解いただけなかったので、訪問そのものが困難になってしまいました。
ご理解を促すためには、やはり時間をかけて何度もご説明させていただくことが必要だと思います。
もしかしたら、S様のお体はこちらが思うよりもっと状態が悪かったのかもしれません。しかも、そのことをご自分の口から娘様やケアマネージャーさんにお話しすることもできなかったのかもしれません。
もしそうであるなら、最初からご無理なことをお願いしていたことになります。
やはり、一番初めのニーズの聞き取りをより詳細におこなう必要があったのかもしれません。
⑤ まとめ
S様の例から分かるのは、『最初が肝心』ということです。
『要支援』の方がヘルパーの訪問を受けると、何がどうなるのかを『初めに』しっかりとご理解いただければ、ずいぶん様子も違っていたのではないかと思います。
そこを勘違いされていたので、S様もヘルパーの側もすれ違ってしまいました。
S様のことは今でも苦い経験となっています。
最後は、こちらの気持ちを少しは受け入れてくださったようですが、もっとやりようがあったと思います。
例えば、訪問の日以外の機会などにちょっとだけ顔を出し、気遣いを示すなどして、もっとコミュニケーションをとれば良かったと反省しています。
職員間でも、もっと話し合い、S様が介護保険サービスをより活用しやすいように考えて差し上げることもできたのではないかと思います。
今回のこの記事を読まれた方は、きっと親御様のことを心底心配され、なんとかして差し上げたいと願っておられると思います。
親御様のことについては、ケアマネージャーさんや訪問介護事業所のサービス提供責任者に率直に相談できますので、遠慮なくおっしゃっていただければと思います。
もちろん、100%希望通りとはいかないかもしれませんが、いい落としどころを一緒に考えてくれると思います。
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