ご訪問いただきありがとうございます。
いきなりですが・・・・・い~ち、に~い、さ~ん。
はい、3秒経ちました。
「初対面の方にどのような印象を与えるかは、最初の3秒で決まります」
訪問介護所事業所の管理者が、ヘルパーの研修の時にこう言っていました。
「いきなり何ですかそれは?」
という感じで申し訳ありません。
僕のヘルパー初期の体験を通して、『3秒に沈み、3秒に救われた』ことをお話ししたいと思っています。
初対面を失敗したあなた何者?
僕は介護福祉士です。
施設系の介護士ではなく、訪問の介護士、ヘルパーです。
以前より『訪問ヘルパー(訪問介護員)になりたい!』と希望しておりました。
就職活動中のある日、介護職紹介業者の担当者から電話が入りました。
『男性の訪問介護員(ヘルパーの別名)OKの事業所が見つかりました』
(仕事柄、男性OKの所は少ないようです・・・)
との連絡を受け、その後とんとん拍子に事は進み、就職が決まりました。
研修期間を経て、晴れて『訪問ヘルパー』の独り立ちできるようになったのは良かったのですが、そこには、とげとげした巨大な壁がそそり立っていたのでした。
壁:男である
「男の人はイヤです」
「あの男の人が来るなら、今後ヘルパーはお断りだ!」
「なんだ男も来たのか、どうせろくでもないのがヘルパーやってるんだろ」
こんな5寸くぎで突き刺されるようなことを何度言われたことか・・・・
そうです、『男』という壁が立ちはだかっていたのでした。
「いきなり男のヘルパーさんがやって来るの?そりゃビックリもするんじゃないの?」
と思われるかもしれません。
おっしゃる通りです。
事業所としても、その辺のことは考えており、事前にご利用者に、「男性のヘルパーが研修で一緒に行きますので、よろしくお願いします」
と、訪問の了解を取り付けていました。
しかし、ご高齢のご利用者の皆々様は、そのようなご連絡のことなどは、とんとお忘れになっておられるのでした。
また、敏感なご利用者は、『今まで来てくれた○○さんから、今度は、このどこの馬の骨とも分からない男に変わるのか?』
と、事業所としての裏の事情を見抜いておられるのでした。
(ヘルパーさんは常に足りない状況なので、僕も含めて一人のご利用者にいろいろなヘルパーが訪問できるようになっていないと、全体としてまわっていかないんです・・・・)
そのような様々な事情や感情がぶつかり合い、せめぎ合い、結果、僕に対する上記のお言葉へと導かれていったのでした。
ご利用者→ケアマネジャー→訪問介護事業所→サービス提供責任者選定→担当ヘルパー選定
選ばれたヘルパーとサービス提供責任者の二人で最初の訪問を行います。
ざっとこんな感じです。
ご利用者が介護保険サービスの利用が決まった段階で、ケアマネージャーさんが主導し、ご家族、そして各サービスを提供する事業者の担当者たちと『サービス担当者会議』なるものが開かれます。
そこで、ご利用者やご家族と、利用されるサービスの担当者一同が顔合わせを行い、話し合います。
その場では、まだ実際に訪問してくれるヘルパーさんに会うことはありません。
ヘルパーを決める
その後、サービス提供責任者からご利用者やご家族にこんなお話しがあります。
(『生活援助』のサービスのご利用者です)
「派遣するヘルパーなんですが、女性のヘルパーが多いんですが、男性ヘルパーもいます。まだだれになるかはわからないんですが、男性でも大丈夫ですか?」
「男の人はイヤです!」
と言われれば、僕は一発で場外へすっ飛ばされてしまいます。
女性のご利用者であれば、男性ヘルパーにできることはかなり限られてきます。
特に、『身体介護(オムツ交換・入浴介助・清拭・着替え・リハパン履き替えなど)』の場合は、ご利用者のお体に触れることがあるので、基本的には『同性介護』になります。
必ず女性のヘルパーが訪問し介護サービスを提供します。
『生活援助(掃除・調理・買い物代行など)』の場合は、女性のご利用者のところへ男性ヘルパーが訪問できます。
前述の通り、ヘルパーは足りないので、男である僕もどんどん現場へと回されます。
最初は、どうしても緊張してしまうので、上司や同僚からは「笑顔よ笑顔!」と言われてはいたものの、僕の顔は『引きつったキツネ』のような顔だったに違いありません。(どうせつり目ですからね・・・)
どうも、ご利用者からの反応が良くないのです。
大変理解のある、寛大な、懐の深いご利用者のところへは、何とか継続して訪問させていただくことができました。
しかし訪問させていただいたご利用者から、「あの男の人ではなく、別の人に替えてください」
という連絡も来たりしていました。
(辛いっす)
笑顔について変化到来
そんな折、ヘルパーの研修会があり、管理者はこんな話をしてくれました。
「初対面の方と会う時に、その人の印象は最初の3秒で決まると言われています。いいですか、3秒ですよ。では、利用者の皆さんにどんな笑顔でお会いしていますか?、二人ペアになって笑顔を見せ合いましょう」
三十人近くいるヘルパーさん参加者のうち、男性は僕一人、あとは30代から80台近い女性です。
僕とペアになったヘルパーさんは、「わたし、女だったっけな?」と平気でおっしゃるような、この道20年、御年75歳の女性でした。
そのお顔をチラリと拝見し、
『あちゃー、なんでよりによってこの人と・・・どんなに怒っていても、どんなに嫌でも自然と笑っちゃうよ』
と、正直思いましたが、そんな裏の気持ちをおくびにも出さず、限界まで忍耐を示して向かい合いました。
上司の声がかかります。
「いいですか、皆さん、ただ3秒笑顔だったらいい訳じゃないんですよ。相手は高齢者です。酸いも甘いも嚙み分けた人生の大先輩です。
顔に張り付けただけの笑顔ならすぐに『営業用だな』って見破られてしまいます。
心からの、優しい、純粋な、気遣いにあふれた、真の笑顔で接しないと、最初の3秒で良い印象を持ってもらうことはできません。
そこのところをよくイメージして、お互い笑顔を見せ合いましょう。でははじめ!」
後で調べたところ、『人の印象は最初の3秒で決まる』ということを発見したのは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンという方です。
メラビアンの法則によると人の第一印象は3秒以内に決まり、見た目などの視覚情報に影響を受ける割合が55%を占めると言われています。
『営業用』って・・・仕事でヘルパーやってるんだから営業用になってもいいんじゃないの?
などと心の中でツッコみながら、お相手の、『女性だったか忘れてしまった』75歳のベテランヘルパーと向かい合い、お互い、言わなくてもいいのに「えがお!」などと声を合わせ、不思議な一体感で笑顔を向け合いました。
「ぶふぉっ」
「あはははは」
「ちょっと、だめー」
などと、あちこちから騒がしい声が聞こえてきました。
僕も、お相手の方も「わはははは、わはははは・・・・」
大笑いしてしまいました。
上司の声がかかります。
「いい笑い声が聞こえてきましたね。その自然な声が出てしまうような顔、その笑顔でご利用者に会ってください」
僕と『女性だったかもしれない(しつこいぞ!)』ヘルパーさんは顔を見合わせました。
そして、お互いにニコニコしていている顔が作りものではないことに気付きました。
上司の真の狙いは何だったのかは分かりませんが、僕の中では何かが変わりました。
笑顔を向けることの意味を今まで取り違えていたのです。
ご利用者に初めてお会いする時には、
『また、交代させられるんじゃないか?気に入っていただけるだろうか?』
などといったことを心配しながら『雑念という唐辛子をいっぱい振りかけた』一生懸命の笑顔を張り付かせていました。
でも、そうではなく、
『なんか分からないけど、楽しかったりうれしいから人は笑ってしまう。それって本当の笑顔だな』
ということに気付いたのです。
ひと言で言えば『自然な笑顔』『心から湧き出る笑顔』です。
でも、ご利用者の所に初めて伺っても、別に何も『笑ってしまう』ようなことはありません。
いきなりやって来た、いい歳をした男が、訳もなく玄関で大笑いしているなんて言う図は、別の意味で訪問を断られてしまいます・・・・・
そこで、僕もない頭をフル回転させてみました。
ご利用者に対する考え方を変えてみた
『ご利用者』対『ヘルパー』
という立ち位置を変えることはできません。
でも、ヘルパーである僕のご利用者に対する考え方を変えることはできます。
それは自由です。
ご利用者の所へは、これから毎週1回、又は毎週2回など定期的に訪問することになります。
『定期的とはいかないまでも、よく自宅にやって来る人ってどんな人だろう?』
それは、親、兄弟、親戚、近所の人、親しい友人などです。
皆さん、顔なじみです。
『そうか、ご利用者の年齢からすると、僕なんかはちょうど甥っ子ぐらいな感じかな?』
そんなことを考えました。
『甥っ子かぁ・・・・・・・・・・・・・・・いいんじゃないの!』
初めてお会いするご利用者なんですが、訪問する僕は、
『いつもやって来ては、いろいろと世話を焼く甥っ子のような気持ちで会いに行こう』
と思いました。
そんなことを思いついたら、フッと肩の力が抜けたような気がしました。
3秒が変わってきた
自分でも不思議なんですが、『甥っ子のような気持ち』でご利用者に会いに行こうと思うと、あまり緊張しなくなりました。
それまでは、
『とにかく笑顔だ、気に入られるよう頑張らなきゃ』
👇
『引きつった顔になってしまうんじゃないか』
👇
『また交代させられるんじゃないか?』
と完全にネガティブのスパイラルに巻き取られていました。
そんな肩ひじ張った状態だったのが、力が抜けてきました。
力が抜けてくると、自然に振舞えるようになってきました。
その良い循環は僕の顔にも良い影響を及ぼすようになってくれました。
そうです、最初の3秒が変わってきたのです!
3秒を変えるきっかけとなったもう一つのこと
ヘルパーは、ご利用者に関することをある程度情報として伝えられています。
(個人情報は決して他へ漏らしません!)
その情報に接すると、ある程度ご利用者のお気持ちなどを推察することができます。
例えば・・・・・
・天涯孤独で一人暮らし、近所に知り合いは一人もいない方
・二世帯住宅に住んでおられるが、2階の子供さん家族とは絶縁状態な方
・40代で脳梗塞を起こされ半身マヒ、60代の今でも独身生活を送ってこられている方
・離婚した元妻や子供さんたちに戻って来るよう促されているが、断固拒否した方
・糖尿病のため、片足を切断され、肝臓がんとも戦っている独身の50代男性
・50代の息子さんと二人暮らしだったが、息子さんを畑仕事中に亡くされた方
などなど、いろいろです。
こうしたことを知り、ない頭を振り絞り、
『一体どのようなお気持ちで毎日暮らしておられるのだろうか?』
『どんなことに困っておられるかなぁ?』
『どんなことを喜ばれるだろうか?』
『初めてヘルパーを頼む時に、どんなことを心配されるかな?』
などと、僕なりにイメージするようにしました。
時には、考えているうちに涙をこらえざるを得ないこともありました。
『この状況に置かれたご利用者の立場が自分だったら、一体どういうことを考えて毎日生活するだろう?』
まだ一度もお会いしていないにもかかわらず、なんだかひどく切なくなり、気が付くと熱い涙がほほを伝っていることもありました。
このようなことを繰り返していくうちに、まだ見ぬご利用者に対して温かい気持ちを抱くことができました。
すると、何だか、
『よく知っている人』
『親戚のおっちゃん、おばちゃん』
『よく挨拶する近所の親切な人』
のような感情が生まれてきました。
それまでは、ご利用者とは『10のうちゼロ』からのスタートだったのが、気持ちの上では『10のうち、5ぐらい』からのスタートになっていました。
その後の3秒
その甲斐あってか、初対面のご利用者に対して、程よい緊張感とゆとりをもって対応することができるようになりました。
同行訪問してくれるサービス提供責任者からも、
「最初の印象が良くなったよ」
「なんかうれしそうね」
などと言っていただけるようになりました。
うれしいことに、ご利用者からの『ヘルパー変更』の希望もなくなっていきました。
そして、定期的に伺っているご利用者の皆さんからは、
「あんたは俺の弟みたいなもんだ」
「あなたのことを息子みたいに思っているのよ」
「○○君(僕の名前)今度はいつ来てくれるの、首を長くして待ってるよ」
と言っていただけるようになりました。
どんな笑顔でお会いしているかは自分で見られないので分からないのですが、きっと少しは『まし』になっているのだと思います。
まとめとして
だれでも最初の印象を良くしたいと思います。
僕の場合、当初のその動機は、単なる表面的なものであって、心からのものではありませんでした。
ご利用者のお気持ちや気遣いに欠けた、木や鉄ででも作ったような笑顔だったのです。
でも、『親しい方あの方に会える』とか『親戚のおっちゃん』に会いに行くといった心持で脚を運ぶと、自然に振舞えるようになりました。
も一つ良かったのは、ご利用者のお気持ちを推察し、感情移入することも役立ちました。
『男』という壁は確かに高くそびえ立っていましたが、乗り越えることは可能だったのです。
多くのご利用者の方と関わることができ、幸せな時間を共有させていただけたことを感謝しています。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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